ずっとセーブポイントを無視してきたからリセットボタンを押すことはできない。
裏技ばかりを使いすぎて数えきれないバグが起きたが無視してきたから手遅れだ。
僕の手だけがいつまでも白い。

もう全部終わったんだよと安堵を隠しもせずに僕に話しかける彼らの顔を一人残らず力の限り引っ叩いてやりたいと心底思った。
何言ってんのふざけんなてめえらくたばれ死ね消えろと小学生のような暴言が喉元どころか唇のすぐ裏側までせり上げてきたけれど、しまったこれは僕の言葉じゃないどちらかというと彼のものだと気づいて吐き出すのをやめた。
ここ最近の僕の役割といえばもっぱら大ボケなかつての仲間Aであったためにこんなときまで愛すべき白痴でいなければならないのが腹立たしい。
無理やり押し込めた罵詈雑言のせいで胸焼けがおきる。
その場で涙はちっとも出なかったがかわりに吐き気が止まらない。
知らないうちに回復魔法は忘れてしまっていたらしく自分でなんか治せないのに、ひどい話もあったものだ。
 似合わなかったはずの悪役仕立ての黒いコートも今の混沌とした思考の自分ならぴったりだろうから服が無駄にならなくてよかったなどと考えもしたが、彼が着てこそ黒いコートが冷酷な魔王のマントになり得るのであってたとえ僕が着こなせたところでそれはただのあたたかい防寒具なのだと本当は気づいていた。
所詮彼は魔王やラストボスというよりも最終局面直前で主人公たちに倒される二番手に過ぎないことも、決戦前の主人公一行がそんなキャラクターをいつまでも気にかけたりはしないことも。
受けたダメージは確かに僕のヒットポイントを上回っていたはずで、僕は彼らの迎える感動のエンディングに立ち会うことはないのだろう。
その前にみんな消えろともう一度強く念じてみたが本当に彼らが消えてしまおうものなら多分僕も消えるのだ。
僕はここまできてようやく初めてセーブをかけた。

みんなみんな大人になってセーブデータが消えてしまう時がきてもきっと僕だけは覚えている。
17歳の頃の、僕ではない僕のノンプレイヤーキャラクター。




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