「そういやぁ、さっきのアンティルールだかでどのカード取られたか知ってるか」

そういえばそんなルールもあった。
遊戯君たちはデュエルの後それどころじゃないんだといって一目散に僕の手当てにあたってくれて、それからのことはわからない。彼らは本当に優しいと思う。薄れていく意識の中で僕は彼らに感謝したのだ。

「そんなもの今はいらないみたいなこと言ってた」
「それはそれは。友情は美しいねェ」



遊戯君が召喚したオシリスは確かにこいつをリングもろとも攻撃したはずだったのに、こいつときたら嫌になるくらい元気だ。仮にも空を飛ぶ飛行船の廊下、歩調が静かなのがせめてもの救いだ。


 予想を裏切らず千年リングはいつの間にか僕の元に戻ってきていた。


「帰ってきちゃったんだよなぁ、この放蕩息子は」
「ふざけんな、せめて旦那にしとけ」
「うちの旦那はギャンブルとお宝と男に溺れて本当にどうしようもないんです助けてお代官様」
「よし」


よしじゃない、ため息がでる。
遊戯君たちが自分を部屋に運んでくれたのはなんとなく覚えていて、
次に意識がはっきりとしたときには体の支配権はバクラに移っていた。
というよりも何故だか千年リングが何食わぬ顔をしてそこにあったのだ。
案の定というわけだ。
予想がしっかり裏切られなかったうえに僕がリングをつけてしまっている以上、
裏切りたくない遊戯君たちを実質自分は裏切っている。


「体かわって」
「無理だ」
「変わらなくていいからリングはずして」
「もっと無理だ」
「こうだもんなぁ。まあ聞いてみただけだよ」


そう息を再び吐き出しながら呟くとバクラはにやりと口角をあげた。

「どうせリングはずすつもりなんざハナからねえもんな、宿主さまは。社交辞令がばればれだ」

バクラはやたらとおかしそうな声をだした。

何言ってるんだ、そんなことないよ、反論を口に出しかけてやめる。
そんなことない、でもそんなことなくもない、かもしれない。
自分も随分いい性格だ。
遊戯君たちもよくこんな七面倒くさいものを抱えた人間の面倒をみてくれている。
いつだったかに見た遊戯君たちの満面の笑顔を頭の中で浮かばせてみてももうそれ以上バクラに反論する気は起きなかった。
とんだ友情もあったものだ。


「宿主様は高みの見物でいいんだぜ」
「いいじゃねえか、宿主さまは王様のなーんにもしらない大切なお友だち。
・・・・傍観するにゃあ最高のポジションだろ」

僕が黙っているとバクラが一層楽しげににやついた。
いいかげん返事をしてやったほうがいいのだろうか。

「体とられるなんて随分お高い見物料だよ。しかも別な人いれたでしょ、僕のなかに」
「まぁな、オトモダチだオトモダチ」
「ちゃんと帰ってもらってね」
「当然。宿主様はオレ様のものよ」


本当にわかっているのだろうか。一体僕の体を何だと思っているのか。
バクラにくれてやったつもりはないのだが。
何度目かのためいきをつく。ふうふうふうふう自分でもいやになるくらいだ。
こんなため息まみれの友人は自分ならいらない。
あとで遊戯君たちにはたくさん謝らなければ。謝って済むことでもないが。
とりかえしのつかないことかもしれないが。
遊戯君は友だちだ。大切だ。裏切っててもそれで嫌われても僕にとっては友だちだ。
僕のものじゃないけど僕のともだち。いや、別個体だからこそ友だちなのだ。
友だちだけじゃない、家族も知り合いも仲間も親戚も恋人も夫婦も結局は個々の間に境界がある。その境界が明確かどうかの違いだ。







― ならバクラはなんだ。意味不明だ。本当に意味不明だこいつは。
今日の行動からして、理解不能だ。
しばらく僕を無理やりおしこめていたかと思えばいつのまにか体ごと空の上だ。
ついでにいきなり僕を表に引きずりだしたと思えば次の瞬間仁王立ちで僕の盾になって高笑いだ。意味不明だ。
いつも叫んでる自分の野望はどうしちゃったんだよ馬鹿じゃないのか。
バクラは僕の体を自分のだという。僕の体は僕のものだ。
バクラは僕を自分のものだという。バクラは僕のものなのか?単なる二等分にすぎないのか?
バクラは僕を守るという。僕は懲りずにバクラのリングを首からさげる。



「まあ、今日のは予想外だったがな。
 あのガキ人様のものをオレの許可なしに勝手に傷物にしようとしやがって」
バクラが苦々しげに唸った。



僕は後ろからバクラの首に腕を回して抱きついた。
今の僕は精神体なのだからそのまま歩いても自動的にくっついてくるはずなのにバクラは歩くのをやめてしまう。
なんだ、という目で振り返ろうとするのがわかる。
こういうところが、そう、こういうところが ― 
こういうところがお互い壊れる原因なのだ。
気づいてみれば僕とバクラは気持ち悪いくらいに癒着している。







「バクラ」
「あぁん」
「僕たち友だちだったらよかったね」
「だからふざけんなよ、最低で旦那だっつったろーが」









(友だちだったらよかったんだよ)
(旦那でも息子でも何でもよかったんだよ)
(中途半端な二等分は苦しい)
(こんな形で逢いたくなかった)
(そしたらお互い裏切れたんだ)














07 23