おめでとう。口には出さずに頭のなかで反芻しても少しばかりこそばゆい。
チキンにポテトにビーフにアップルパイにジンジャーエール、と、コーラ、で祝うことにした。何をも何も、気がつけば自分の誕生日だったから、自分で決めて自分でそうした。目の前にはタンドリーチキンにベイクドポテトにビーフステーキに手作りのアップルパイに小洒落たグラスの中に件のドリンク、だったらならばきっと、文句もなく華やかな食卓と評することもできるだろうが、実際のところテーブルの上に自分がならべたのはチキンナゲットにフライドポテトにチーズバーガー、紙コップにプラスチックで蓋をしたストロー付きの件のドリンクで、以上やたらと指が油で汚れるメニューでご注文はお揃いというわけだった。
椅子のうえについた片膝に顎をあずけながら、最後に残ったポテトを二、三本まとめてつまんだ指をついと舐める。僅かな塩辛さが舌に広がる。舌が少し切れていて痛い。口内炎は厄介だ。明日になるまでに治るといい。
ダイニングテーブルにきちんと食べものを乗せるのは、思い返せばいつぶりかだった。ずず、とほぼ飲み干してしまったジンジャーエールに未練がましく口をつける。溶け出した氷で薄められて、随分と優しいあじがする。なにも吸い上げられなくなってもきりりとストローを軽くかじっていると、紙袋の、赤と黄色にMのロゴが陽気なほどに鮮やかなのがふと目に入った。
これと言って不満のない誕生日に、はたから見ればよくはないにしても不服ではない誕生日にもしそれでも気に食わない部分があるとすれば全てはその紙袋に集約しているのだろう、というよりもその紙袋にいろんな腹のなかのぐるぐるした黒いものが流れ込んでいって集めてしまってくれるおかげでそれでなんで ―
ぎり、ねじれたような音と一緒に、僕はストローを噛み切ったらしい。
だってジンジャーエール、と、コーラ、で祝うことにしたのだ。
紙コップの表面に汗をかかせながらもきっとコーラはまだ辛い。なぜかって当然だ口をつけていないから。
まるまるワンセット放りだされたままのチキンもポテトもビーフもアップルパイも、食べる人間がいないなら明日の一番捨ててやろうとそう思う。ひどくもったいないとそう思う。だから来ればいいのにと、そう思った。確かに。認めようじゃないか。なんたって今日から大人なわけだ。
おめでとうぼく。
many happy returns = おたんじょうーびおめっとー